2019年9月 アーカイブ

2019年9月29日 17時33分44秒 (Sun)

投資の意思決定

1995年に事業化を実現したオーバーライトMOディスクの開発成功要因はいくつかありますが,その中でも大きかったことが投資判断のタイミングです.当時の3.5インチと5インチのMO市場で予想される需要に対応するためには3本のラインが必要であり合計の投資額は30億円だったのです.当初は小型のプラントを導入し,量産技術の開発を実施してから大規模投資をする予定だったのですが,それでは第3世代の3.5インチMOの発売時期に間に合わないことが判明し,量産技術の開発をスキップしていきなり大量生産ラインを導入したのです.当然のことながらこの判断には相当に大きな技術的なリスクがあったのですが,そのリスクをとり,市場投入遅れによる事業機会損失を回避したのです.もしあの時点で日立マクセルの事業本部長による30億円の投資の即決判断がなければオーバーライトMOディスクは世の中に出ることはなかったはずです.

品質工学の考え方と技法を開発プロセスの骨格に導入し,急がば廻れのアプローチによって開発上流段階で性能と品質を両立確保することはできます.しかし,それだけでは事業化までは至りません.その技術を商品化するためには投資の意思決定という大きな壁を乗り越えなければならないのです.しかも,その意思決定が遅れることが致命的な場合もあります.オーバーライトMOはISO規格に準拠していたこともあり,一定レベルの市場ニーズを見込むことはできたのですが,自社独自の企画による新製品の場合の市場性判断はとても難しくなります.

投資失敗のリスクを低減するために確実に売れる市場を探すマーケティング活動を実施するケースも多いかもしれません.しかし,ここで良く考えていただきたいことは,品質工学を活用して早期に技術を完成させても,その後のマーケット調査活動に長い期間をかけてしまっては市場投入までのトータルな商品開発期間は短縮されないということです.また,マーケティング活動は社外への情報提供にもなりますから,競合が情報を入手して先に市場投入されてしまうリスクも高まります.投資判断の意思決定スピードとリスク判断は商品開発プロセスの中での重要課題です.意思決定スピードとリスクのトレードオフは,石橋を叩いても渡らない等々,一般的にも議論されている課題ですが,もう一つ付け加えたいことがあります.これはオーバーライトMOディスクの開発で実際に経験したことですが,即断即決の意思決定が技術者のモチベーションアップにつながり,それが前述した技術リスクの低減に大きく寄与したということです.それについては別途報告したいと思います.
 

2019年9月22日 15時55分51秒 (Sun)

11/23 日本品質管理学会年次大会で発表します

2018年10月から日本品質管理学会と品質工学会の共同研究プロジェクト「商品開発プロセス研究会」の活動を開始しました.本研究会ではグローバル競争の中での日本の製造業の現状と課題にを共有化した上で,2019年4月以降は3つのワーキンググループ(WG)に分かれて活動を継続しています.
WG1 「
顧客価値創造の上流工程プロセスの開発」 
WG2 「
創造性と効率性を両立した技術開発プロセスの構築」
WG3 「損失関数の新事業プロセス評価への適用研究」
11/23に早稲田大学で開催の日本品質管理学会第49回年次大会では本研究活動の状況を報告します.

私が幹事を担当しているWG2 の発表概要は以下となっております.
「WG2ではDFSS(Design For Six Sigma)における技術コンセプト考案のステップをベンチマークに設定し,新たな技術開発プロセスを構築する活動を継続している.現在は各社での課題や事例を題材としながら品質工学やMBDをはじめとする各技法を有機的に組み込んだ技術開発プロセスの構築を目指しており,その取り組みの状況及び現段階での成果としての技術開発プロセスの全体像を紹介する」

当日は品質工学会からも多くの方々の参加をお待ちしております.

また,今後は本研究活動に関する情報もこのブログを通じて皆様と共有化していきたいと考えております.
 

2019年9月14日 9時32分18秒 (Sat)

今年の東工大授業を終えて

今年の東工大授業を終えて2008年から東工大の非常勤講師としてタグチメソッドの講義を担当しています.2015年までは学部3年生が対象でしたが2016年からは機械系の大学院修士1年生が対象となり,それに合わせてシラバスも実際の開発事例を含む実践的な内容に変えました.

東工大 タグチメソッドシラバス 2019年 第2クオーター

第1回  企業におけるモノづくりの課題とタグチメソッドへの期待
タグチメソッドの開発設計アプローチ
第2回 2乗和の分解とSN比の基礎
第3回 1元配置・2元配置実験とSN比及び交互作用
第4回 直交表実験とその解析方法
第5回 望目特性のパラメータ設計
第6回 機能性評価の考え方(目的機能と基本機能)
第7回 動特性のSN比とパラメータ設計 事例紹介
第8回 まとめと最新技法CS-T法の紹介

http://www.ocw.titech.ac.jp/index.php?module=General&action=T0300&GakubuCD=2&GakkaCD=321515&KeiCD=15&course=15&KougiCD=201904473&Nendo=2019&lang=JA&vid=03

今年の履修者は65名で,出席をとらないにもかかわらず毎回ほぼ全員出席でした.企業の技術の現場でのリアルな話に多くの学生が興味を持っているのでしょう.受講生からのコメントを要約すると,

・有用なメソッドであることがよくわかった
・実際の企業における技術開発事例が興味深かった.
・タグチメソッドは将来働く上でとても役立つ.

などなどでした.



2019年9月8日 18時19分02秒 (Sun)

急がば回れ

品質工学のパラメータ設計は失敗したときこそ価値があるというように言われることがありますが,その意味を理解し,さらには納得するのは難しいと思います.加法性の悪い評価特性を使っているために強い交互作用の影響を受けてしまい開発が混乱しているケースや開発目標を達成できる可能性があるとは思えないシステムを対象に一因子実験を継続しているケースをたくさん見てきました.このような状況にある開発テーマの担当者やマネジャーの方々に対して,評価特性の見直しやシステムの再選択の必要性を判断をすることを目的にパラメータ設計の実施を提案しても快く受け入れてくれるケースは少ないかと思います. 難易度の高い開発テーマに品質工学を活用し,事業化まで成功したテーマを振り返ると,そこにはいくつかの共通点があります.その一つが”急がば回れ”のアプローチを受け入れることです.多くの開発テーマでは,顕在化している複数の問題の中から一つの問題を取り上げて,その対策実験を実施し,その問題の対策の目途がついたら今度は別の問題対策に移るというやり方です.これは一見すると着実に一歩一歩前進しているように感じますが,前述したような交互作用が強いシステムや加法性のない評価特性をものさしにした開発では以前に対策したはずの問題が再発してしまい,開発現場が一種の混乱状態になり,方向感のない試行錯誤が繰り返されることになってしまうのです.複数の目的特性の間にトレードオフ関係が潜んでいる場合も同様な混乱状態に陥る危険性が高くなります. このような状況にある開発テーマに対して顕在化した問題を早期に対策するためのパラメータ設計を実施することも可能です.そのような部分最適化のアプローチでも実験の効率化は達成できますが,開発をゴールに導く原動力にはなりません.今のシステムや評価特性を見直す必要性を判断するためのパラメータ設計を実施することで開発全体が大きく前進するのですが,それを失敗するためのパラメータ設計とは呼ばずに,急がば回れのパラメータ設計と呼ぶのはいかがでしょうか. さらに, 今のシステムには解がない,あるいは機能定義が不適切という結論を得るだけではなく,新たなシステム構造や機能を考案するための技術情報を得るためにCS-T法を活用することを推奨します.

2019年9月1日 17時16分12秒 (Sun)

納得感と負担感

品質工学の代表技法であるパラメータ設計の活用が進まない理由の一つに負担感があると思います.直交表L18の外側に誤差因子を割り付けると最低でも18×2=36回の実験が必要になります.36回の実験を実施しなければ改善効果がわからない,しかも目標未達成という結果となってしまう可能性が高いとなればパラメータ設計の実施をためらってしまうのは仕方のないことです.パラメータ設計は失敗するために実施するなどと言われても納得できる人はほとんどいません.

かつて自分の開発テーマにおいてL18×(L4×L9)のパラメータ設計を計画し,それを約2か月かけて実施した結果,選択したシステムには解がないという判断をしたことがあります.ネガティブに言ってしまえば2か月もの期間を投入したパラメータ設計は失敗に終わったということになりますが,当時開発対象としていた方式(4層膜方式)での事業化可否の意思決定をすることが目的であるとしたら,はたして2か月の期間は長いと言えるかどうかです.事業化可能であると判断するためには,少なくとも技術的なリスクは十分に小さいということを示さなければいけません.未完成な技術を製品化プロセスに流した結果,下流で品質問題が顕在化し,その問題解決のために市場投入が遅延する,あるいは最悪の場合は事業化を断念するというケースもあります.それを避けるためには十分な市場品質(環境ノイズに対するロバスト性と耐久性)を確保しながら複数の製品への設計が可能であることを製品化プロセス上流の開発段階で予測判断することが必要となります.当時は,この予測判断の必要性に納得感があったので2か月のパラメータ設計の実施に対する負担感はありませんでした.同じ実験をするにしても,納得感が高ければ高いほど負担感が減っていくのではないかと思います.この納得感を高めることが経営層を含めたマネジメントの大きな役割かと思います.納得感と負担感については今後もコメントしていきたいと思っています.

参考文献

「交換結合オーバーライト光磁気ディスク開発への品質工学の適用」細川哲夫,
岡室昭男, 宮田一智, 松本広行 品質工学,Vol.2, No.2 (品質工学会)pp.26-31.

プロフィール

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TETSU
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品質工学でブレークスルー
座右の銘
あきらめないこだわらない

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