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2021年8月14日 14時41分55秒 (Sat)

商品開発プロセス研究会WG2の振り返り

 2018年から品質工学会と本学会の共同研究会「商品開発プロセス研究会」がスタートしました.アカデミアが中心の品質管理学会と技術者が中心の品質工学会が融合することによって,日本独自の産学連携の研究組織が実現したのです.このような研究会が実現することは両学会に所属する筆者にとっては数年前までは予想すらできなかったことです.大きな期待感を抱きながら,これは日本の製造業に役立つ新たな価値を提供する大きなチャンスであると考え,本研究会の3つのWGの一つであるWG2「創造性と効率性を両立した技術開発プロセスの研究」の幹事を担当し.現在に至っています.

 WG2では,創造性と効率性を両立させた最も効果的な技術開発プロセスとして欧米で市民権を得ているDFSS(Design For Six Sigma)をベンチマークし,そこに品質管理や品質工学の考え方や技法を融合させることで,DFSSを超える技術開発プロセスを構築することを目指して活動を継続してきました.そして,その成果として技術開発プロセスを設計するプラットフォーム“T7”を提案するという段階に到達し,品質工学会の大会RQES2021Sにてその概要を発表する機会を得ることができました.今後はT7の実践活用を推進するために各地方研究会での共有化や学会誌への論文投稿を進めていきます.また,実践活用を通じて課題を見える化し,よりよいものに仕上げていくことも同時に進めていく予定です.
 

2021年7月25日 13時54分31秒 (Sun)

今年の品質工学研究発表大会(RQES2021S)で印象に残った事例 その2

 RQES2019Sまで我々リコーから継続してCS-T法の事例を発表してきましたが,今年はCS-T法の事例2件を9月にRQESと共同で開催される国際大会ICRQEで発表します.プログラムを見ると77件のタイトルにCS-T法の名称が一つもなかったので今年のRQES大会ではCS-T法の発表はないと思っていました.ところが予想に反して初日のメインセッション「ITとの結合」の中で日本精工㈱からCS-T法の活用事例が発表されたのです.その活用方法がまさにCS-T法の狙い通りに効果的なものでしたので,ここで共有したいと思います.

 テーマ名は「カシメハブ軸受けの金型形状の最適化と新たな制御因子の探索」です.自動車の重要保安部品であるホイール軸受けユニットの加工を対象とした事例です.カシメ加工の金型の制御因子である寸法は交互作用が強く,従来は職人的な感と経験で寸法を決めていました.水準幅を広く設定する通常のパラメータ設計では交互作用の影響を強く受けてしまい,最適条件を正しく見出すことが難しいので,本事例では水準幅を狭く設定し,交互作用の影響を抑制しながら逐次的に複数回のCAEの直交表実験を行い,確実に最適条件を求めるアプローチを採用しています.これによって,ほしい特性である軸力を維持しながら内輪膨張量を33%低減する効果を得ています.ここで,目的機能の出力yを軸力,入力Mをカシメ荷重としています.

 ここまでが従来の品質工学の典型的なアプローチであり,現行機種の改善を目的とした活動と言えます.本事例で特筆すべきところは,次世代以降の機種にも対応するために逐次パラメータ設計の実施と同時並行で様々な中間特性をCAEから取得し,CS-T法を実施したことです.パラメータ設計と同時にCS-T法を実施することによって,目的機能と因果関係のある中間特性を検出し,新たな改善メカニズムを見出しています.そして,新たなカシメ方法を考案して特許出願まで実施しているのです.このアプローチがまさにCS-T法の狙いそのものであり,CAEとCS-T法の親和性の高さを証明してくれた事例です.

 この事例はCS-T法の効果を証明してくれただけではなく,CS-T法の新たな可能性も示してくれたと感じました,それについても触れたいと思います.これまで技術蓄積が少ない新しい技術領域を中心にCS-T法の活用を進めてきましたが,カシメ加工のように技術の蓄積が豊富な領域でも有効性が高いことがわかったことです.これは交互作用の影響と関係があると考えられます.交互作用の影響が強い場合,全ての制御因子の水準組み合わせの実験を実施しないと正確に最適条件を求めることはできません.全組み合わせ実験を実施すれば,本事例の逐次パラメータ設計の最適条件を超える条件が存在する可能性が十分にあります.さらに加工方法を大きく変更するなどのシステム変更を実施すると最適条件が異なってくる可能性もあります.

 このような交互作用が強いシステムでは長期間にわたる技術の蓄積があったとしても十分ではない可能性が高いのです.根本的な問題は目的機能と制御因子の因果関係によって技術を蓄積していることにあるのです.目的機能とCAEの中間特性のような現象説明因子の因果関係把握が効果的なブレークスルー実現の原動力なのです.それがCS-T法の第一の狙いなのです.
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784817197115


 

2021年7月21日 16時36分06秒 (Wed)

今年の品質工学研究発表大会(RQES2021S)で印象に残った事例 その1

 昨年はコロナの影響で中止となった品質工学研究発表大会(RQES)ですが,今年は6/24と25に完全リモートで開催されました.その中で,なんと言っても圧巻だったのは12件もの発表を行ったマツダです.全発表件数が77件ですから,今回の大会へのマツダの貢献度はすばらしいものがありました.しかも,その発表内容は基本機能を用いたスカイアクティブエンジンの技術開発から加工現場のハイレベルな技能者の技能の見える化まで,とてもバラエティーに富むものだったのが驚きです.この発表内容から見てもマツダは日本で,いや世界で最も品質工学の活用が効果的に幅広く展開されている企業と言ってよいでしょう.

 マツダの発表件数は品質工学の推進という点でも注目すべきと感じます.品質工学は検定や多変量解析などのように既存のデータに対して正しい手順で正しい結果を算出する統計的品質管理などの手法とは異なり,テーマの目的や状況に応じてアレンジすることで有益な成果を得る技法なのです.よって,品質工学の活用方法に正解はありません.役立つ結果が得られれば,そのアプローチは結果的に正解だったことになるのです.このような応用力が必要な技法に対してトップダウンで実施件数を管理項目にするような推進をすると,ほとんどのテーマで十分な効果が得られず,面倒くさいだけで効果が不十分な技法など二度と使わないとなってしまいます.マツダのすごさはそこにあります.

 中身のある事例がこれだけたくさん生まれてくる背景には重要なポイントがあるはずです.それは経営課題の解決手段に品質工学が位置付けられていることだと思います.納得性の高い経営課題が設定され,それを社員が自分のこととして理解するまで方針が展開されているのでしょう.この方針の展開によって,部門の課題を解決する手段として品質工学が位置付けられ,その技法や考え方が有効に活かされる場が作られるのだと思います.

2021年6月23日 19時44分16秒 (Wed)

儲ける経営より儲かる経営

これはリコー創業者の市村清の言葉です.この言葉は儲けることそのものを目指すのではなく,価値を提供した結果として儲かるのであって,道に即してやれば,自然に儲かり利益は無限大になるという意味です.納得感のある言葉ですが,これこそ言うは易く行うは難しなのです.「儲けるより儲かる」を実践するためには潜在ニーズの着想とリスクを伴う投資の意思決定が必要なのです.市村清が「儲けるよりも儲かる」を最初に実践した事例が,明治神宮で結婚式や披露宴を開くという事業です.

終戦直後の明治神宮は参拝者が激減し,寂れた状態になっていました.そこで1947年に市村清に再建の依頼がきたのです.そこでひらめいたアイデアが結婚式場だったのです.今でこそ神社で結婚式は当たり前のことですが,当時としてはそんな発想をする人は他にいなかったのです.おそらく,市村清の頭の中には神社で結婚式を挙げるシーンが描かれていたのでしょう.この創造性こそが市村清が天才経営者と言われた所以の一つであり,スティーブジョブスやソニーの盛田昭夫などの経営者と共通性があります.

もう一つの壁は投資判断です.テレビや車のようにすでに市場が存在していて,確実に売れるとわかっているものであれば投資判断に反対する人はいません.ところが,お客様自身が有用性を実感していない潜在ニーズを充足する商品の場合,本当に市場があるかどうかはその商品を市場に投入しないとわかりません.つまり,潜在ニーズに対する投資判断は未来予測の意思決定なのです.そして市村清が提案した明治神宮を結婚式場にする提案に対して,当時の重役会は猛反対したのです.おそらく重役の方々には明治神宮で結婚式を挙げる素晴らしいシーンを創造できなかったのでしょう.そこで,市村清は損失が出た場合は個人で責任を負う覚悟で建設事業を引き受けたのです.このあたりは,当時のソニーでは録音機能がないテープレコーダーなど売れるわけないと反発されたという話と共通しています.

このように潜在ニーズを充足する商品の実現には新たな利用シーンの創造と意思決定の2つの大きな壁が存在します.こう言ってしまうと我々凡人には潜在ニーズを充足する商品の実現などとてもできないと思ってしまうかもしれませんが,実はそんなことはありません.福原先生が提案された新市場提案型QFDを効果的に活用することで新たな市場創造の現実性が高まります.ただし,投資の意思決定という経営マネジメントの課題は残ったままです.私がニコン時代に開発したLIMDOW-MOの事業化成功要因の一つは当時の日立マクセルの事業部長が量産リスクのある案件にもかかわらず,リスクをとって20億円の投資を即断即決してくれたことにあります.あの即断即決がなければ事業は失敗していたはずです.最近はこのような大胆な経営判断が少なくなったような気がします.
 

2021年5月16日 14時15分31秒 (Sun)

基本機能の定義と狙い

基本機能は品質工学の骨格に位置づけられる概念といっても過言ではありません.最新の用語集では、基本機能を「目的機能の達成に用いる技術の基本原理」と定義しています.なんとも漠然としていますね.さらに,目的機能は「顧客の立場で対象システムに要求する機能」とされています.こちらも,わかったようなわからないような漠然とした印象です.ここでは目的機能,基本機能をもう少し明確に定義してみたいと思います.

まず機能から
出力としての計測特性yと,yの値を変化させる入力Mの関係y=F(M)

目的機能の計測特性
お客様がほしいVOCを計測可能な特性yで代用したもの
例)自動車 ほしいVOC:ある地点からある地点まで移動すること y=加速度
  加速度を変える入力M:アクセルを踏む量
目的機能のメリット:トータルシステムの評価が可能
目的機能のデメリット:加法性が不十分のため交互作用の影響を受けやすい(と言われている)

基本機能の計測特性
目的機能を実現するメカニズムを記述する因子Xiの中から目的機能の計測特性yを完全に置き換え可能なもの.ここで完全の意味は,評価対象に関して,目的機能の計測特性yと因果関係を持つすべての制御因子と因果関係を持つ因子であることです.これが成立しないと部分最適の方向になってしまいます.
例)自動車の場合 エンジンのシリンダ内部の燃焼現象を記述するセンシングデータ など
基本機能のメリット:加法性が良いので交互作用の影響を受けにくい(と言われている)
基本機能のデメリット:部分最適化になりやすい

基本機能とはエネルギー変換であると定義されることも多いのですが,目的機能を実現するメカニズムはエネルギー変換を計測することで記述できるケースが多いとするのが適切かと思います.なぜならば,基本機能=エネルギー変換としてしまうと用紙搬送のような微小なエネルギーで駆動するシステムではその計測が困難なため基本機能を使うことができないとなってしまうからです.用紙搬送の目的機能の計測特性は速度や移動時間ですが,その基本機能の計測特性は用紙を移動させるメカニズムの良さをセンシングしたものであるとすれば,用紙の挙動などもその対象になります.基本機能を考案する狙いは評価のものさしとしての加法性確保だけではなく,目的機能を実現するメカニズムを把握することによって新たなシステムや制御因子を考案することも狙いの一つなのです.むしろ後者の狙いの方が重要かもしれません.そのための技法がCS-T法です.また,CS-T法,機能性評価,公理設計などの技法を活用する技術開発プロセスを設計するプラットフォームが"T7"です.
    
  
  

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